これまでにもお伝えしてきましたが、夏場の炎天下でも冬場の吹雪の中でもチキントラクターの中に鶏がいて、少しの対処で快適に過ごせる設計をしています。
度々、構造についてお話することがありますが、私どもの移動式鶏舎、チキントラクターに無垢杉材による断熱性と調湿性のほか、豆腐をひねるような地形にならう柔軟性、それを確保するための接合部の剛性があることをイメージした上で読んでいただければと思います。
どうしても長ったらしい文でくどいかもしれませんが、見えないところなどはとくに知っておくと扱っていても楽しくなると思うので、なるべくオープンにお伝えしたいと考えています。
もちろん冬場は草も虫もいない代わりにお住まいの地域によっては重い雪が降り積もるので移動を必要としませんが、雪囲いのように対処するとより万全となります。
ちゃちな作りではありませんが、夏場の移動性を考えた時に必要とされる軽量化をしているためとお考えください。
つまりチキントラクターに求められる要素は、軽くて頑丈であることとなります。
弊社のチキントラクターは、その剛性を確保するために接合部分に最大限の工夫をしています。
そのうちのひとつが組んだ材を強固に締結するビスです。
ちなみに一般的にはあまり知られていませんが、釘やビスは材に対してまっすぐに打ち込むと締結強度が弱くなります。
そして、まっ平な場所がほとんどない場所でチキントラクターは歪み、打ち込んだ釘やビスは木材内部でそれなりの耐久性が求められるわけです。
金網でも言えることなんですが、その際に内部で生じる“せん断応力”に耐えるためにはステンレス製のビスや構造用のビスは必須です。せん断応力というのは、例えば縦方向(垂直)の釘に対して横方向に働く力のことなんですが、わかりやすいように画像を用意しました。
左側がステンレス製、右前が鉄にメッキのビス。一般的に木工や建築で使用されるコースレッドというタイプのものです。
どちらもひっぱり強度は強いものなんですが、このようにせん断方向に玄翁(金槌)で一定の力に叩いてみます。
さて、どうでしょうか。
向こう側のステンレス製は曲がり、手前の鉄製は折れています。
鉄製の断面を見てみると、
螺旋を除く芯の部分が意外と細いのもわかりますが、断面はサクッと折れているのがわかると思います。まるで陶器を割ってしまった時のような割れ肌をしていますよね。
家具木工などでは引っ張り強度が確保されていれば問題はないのですが、凸凹の地面を移動するチキントラクターでは、ビスが刺さっているように見えて材と材の接合されている内部ではこういう状態になってしまいます。
加工したことがある方はご存知かもしれませんが、ステンレスの特性は、錆びにくいことと粘り強さにあり、チキントラクターではそれを活用し、なおかつ打ち込み方によって全体的な剛性を確保しているわけなんです。
さてもう一点。これも重要なポイントになりますが、亀甲金網とその一次固定に使用しているステープルもステンレス製を標準仕様としています。
金網が錆びずにいつまでも美しいというメリットもありますが、それよりも天敵動物から鶏を守ることのほうが重要ですよね。
ステープルというのは、ホッチキスの針のようなもので、弊社ではエアー工具でこれを打ち込んで固定しています。
そのステープルまでステンレス製にする理由は、これも実証実験でわかったことですが、鉄製のステープルによって一次固定した場合、3ヶ月後には赤錆のヨレヨレの糸のような状態になります。つまりそれは効いていない(固定されていない)状態です。
6年前の実験中の写真です。
固定するピッチが粗いこともあって、金網は簡単に手で引っ張ってはずれたのを覚えています。
こちらは自社用のチキントラクターだったので、ステンレス製で補修した際の写真です。
今現在、お客様のところでこのような状態にならないようにステンレス製のステープルと固定ピッチはかなり細かくしています。
先ほど、金属の特性をご覧いただきましたが、亀甲金網にも同じことが言えます。
これは子育て中の獰猛なキツネがやってきた痕跡です。
ステープルが赤錆びるものだと、周囲に簡単に隙間ができるのはご想像どおりですが、亀甲金網も鉄製でビニールや亜鉛メッキのものは、キツネには簡単に切り裂かれます。これも実証実験で確認済みです。
上の写真はステンレス製で伸びていますが、修繕が可能です。
亀甲金網の張り方も実験から得られたものから考慮し、強度を確保、その上に押さえ材でステープルの抜けを防止しながら二次固定することを標準仕様としています。
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亀甲金網をステンレス製とすることでもうひとつメリットがあります。
粘り強いステンレスの金網はそれを構成する針金を細くしても強度が充分なので、チキントラクターを斜め方向から見ても中の鶏の様子がよく見えています。
鉄製の亀甲網や二重張りだとこうはなりません。
これは、風通しを良くすることに成功していると言えます。
ちなみに金網の目あいや各部の隙間については、農水省のガイドラインで設定されているものがあり、私どもでは16mm目合いを標準仕様としてそれをクリアしています。
獣に切られたり錆びて切れているのを県の職員や養鶏農家さんから注意を受け、その場で対処が求められたりします。
鳥インフルエンザについては、いろんな考え方がありますが、ルールを守ることでお互いに安心ですから、とても大切なことだと捉えています。
よく冬の時期に鶏が寒がるとかわいそうだとおっしゃって何らかで囲ってしまう方もおられますが、通気がないことのほうがトラブルの元になることが多いんです。
氷点下20度でも豪雪でない限り私どもでは、この状態で飼養しています。
今日は、ビスとステープル、亀甲金網のお話をさせていただきましたが、そのほか構造上のポイントと合わせて『柔軟な剛性』というものを生み出しています。
さて、もうすぐ梅雨があけるのでしょうか。
猛暑がやってくると今年もチキントラクターの断熱性や通気についてチェックしたいと思います。
またレポートしますので楽しみにお待ちください。